『東洋法制史研究会通信』第13号(2001年8月21日)

《記事》

中国政法大学図書館(海淀区キャンパス)参観報告

高見澤 磨


 1998年11月5日(木)午後3時より5時まで、中国政法大学(海淀区キャンパス)図書館を参観した(中国政法大学はほかに、郊外の昌平県キャンパスを有している)。これは、鄭秦中国政法大学教授のご厚意で実現したものである。当日は、寺田、鈴木、高見澤の三会員と大阪大学言語文化研究科博士課程の菅原慶乃氏(中国における「文化」概念研究)の四名が参観し、中国政法大学側は鄭秦教授のほか、中国政法大学図書館長曹尓恕教授ほか図書館スタッフ及び大学院生が応対して下さった。また、参観後、集書家として著名な田濤氏と交流する場を設けて下さった。この場をかりて深く感謝する。

概況

 両キャンパス図書館とも大学の性質から、法学関係の書籍を中心に集められているが、海淀区キャンパスは「研究生院」(大学院)が主体であるため、外文書が相対的に多いという特徴があるということであった。
 1階は近現代中国語書籍の検索室(カード式のようであった)・請求窓口・書庫、事務室、書店(なかなか品揃えがよい)、2階が外文書(開架式)、地下に貴重書書庫(線装本及び近代貴重書を主とし、特別の手続きを経て入庫できる)がある。
 外部の者でも短期の利用ならば中国政法大学スタッフの紹介でよいが、長期の利用の場合には図書館カード作成の手続きを要するとのことであった。

外文書

 外文書の大部分は英文書で、その次に多いのが日文書である。外文書は定期刊行物を含め、予算の関係から、一定部分を寄贈・交換に頼っているということであった。東京大学、京都大学、東北大学、早稲田大学等の日本の大学からも雑誌が送られ、また、ジュリスト、法律時報、法学教室、法学セミナー、民商法雑誌その他の法学雑誌も購入され、日本の法学界のおおよその動向を見るには充分なように見受けられた。最高裁判所からも判例集が送られている。法制史研究は37号以前は単行本として若干のものが日文書の法制史の分類に置かれ、38号以降は定期刊行物として配架され、47号が近着雑誌のコーナーにあった(図書館スタッフは、38号以降は日本から定期的に寄贈されてきていることは知っていたが、当研究会からということは知らなかったようで、今後当研究会と中国政法大学の交流を充実させるためには、法制史研究に東洋法制史研究会の印を押して送るなどの工夫があってもよいかも知れない)。日文書は重複本を除いた種類数は2000余りで、予算の関係からか、近年のものは少なく、既存書と定期刊行物とを組み合わせることで、学界の動向を追えるという程度と見えた。英文書の中にも京都の比較法センター(北川善太郎代表)によるDoingBusinessinJapanシリーズや藤倉皓一郎編のJapaneseLawandLegalTheoryもあり、一定程度の日本法研究は可能な環境である。日本の近代以前の出版物は見あたらなかった。

貴重書

 貴重書については、短時間の参観ではその内容を看取することは困難だが、古書籍のほか、中国近代法史関連の資料が一定程度あった(万国公法、南方政府公報、朝陽大学法律講義、新釈日本法規大全その他)。外文書は見あたらなかった。

近現代中文書

 書庫内の書架の三分の一程度は工具書及び人文関係、三分の一が政治、経済関係で、残り三分の一が法学関係であった。中国の図書館にしばしば見られるように重複本が多いので、実際の種類数は見た目よりも少ないはずだが、一通りの分野に一定数の書籍があった(但し、最近の出版については、1階書店がよくそろえているので、短期間のみこの図書館を利用する場合で、最近の出版動向を見るためには、この書店も見逃せない)。
 修士論文も、それぞれの分類のところにあり、興味深い。

若干の考察

 (1)中国法研究に関して

 日本人が中国法を研究するために留学・海外研修に赴く場としては理想的な大学のひとつである。現に日本人留学生もいる。現代中国法研究については、司法部の指導も受ける大学であることから、学習・研究環境としては、他の大学法学部とは異なる特徴を利用することが可能であろう。法制史研究は中国の中でも指折りの大学であるので、これもまた理想的な場である。とくに、今後長期に滞在して、貴重書書庫の本にじっくり目を通し、目録を作り、日本に紹介するような作業を行う人が現れることを望みたい。

 (2)日本法研究に関して

 我々中国法研究者は、ときに間接的ながら中国の日本法研究を支援することがある。そうした者の目から見て、中国における日本法への関心はけして小さくない。シンポジウムなどでは、英米独仏とならんで日本法についても言及される(その言及する内容自体の適否は別にして)。また、日本語で論文を書け、討論できる法学者も一定数存在している。

 しかし、日本法を学ぶ機会は極めて少ない。中国の大学の大部分(法学系統を含む)は外国語1カ国語を学べばよいので、普通は英語を学び、日本語は学習者の極めて少ない英語以外の第一外国語として独仏と二位を争い、また、同じく学習者の極めて少ない第二外国語として独仏と一位を争うという程度である。この点からは日本(の関係機関)は、中国における日本語教育支援を漫然と行うのではなく、第一外国語として、第二外国語としてというように分け、第二外国語としての日本語教育の普及・支援のプログラムを持つべきであろう。また、日本法を概観するような科目開設への援助、研究プログラムへの支援などと第二外国語としての日本語教育支援とを組み合わせるような総合プログラムを検討すべきであると考える。中国政法大学も蔵書及びスタッフから見て、日本法研究を行う条件が一定程度あり、さらに条件が整備されることを望む。

 以上のような点から、当研究会としても、中国政法大学との交流を続け、また、力量は極めて限られているが、交流の工夫をしていくことが必要であると感じられた。

(1998年11月6日)
(たかみざわ おさむ 東京大学東洋文化研究所 1998年3月24日より
1999年4月4日まで、北京日本学研究センターにて海外研修)

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