『東洋法制史研究会通信』第24号(2013年8月)

《記事》

オランダ滞在記――図書館及び関連情報の私的備忘録──

西  英昭



1.はじめに

 勤務校より半年のサバティカルを頂き、2013年3月より半年間、オランダのライデンで在外研究をさせていただくことになり、今回「ライデン便り」のような気楽な読み物を、ということでこの小稿を草することとなった。
 「中国史をやっている方がなぜヨーロッパ、しかもオランダへ?」とはこれまで散々聞かれた質問であるが、今回滞在したオランダ・ライデンはヨーロッパにおける中国学の重要拠点の一つである。「雑誌T'oung Pao(通報)の拠点はライデンとパリですし、それを出版しているBrillだってライデンですよ」と言ってみたところで中国学を専門とされない方には何の話だかわからないと言われそうだが、そうした学問的な話は別の機会に譲るとして、今回はなるべく肩の凝らない話、また今後オランダ行きを考えている方のために多少なりとお役に立ちそうな情報をまとめることとさせて頂きたい。

2.渡航について

 今回お世話になったのはIIAS(International Institute for Asian Studies)という研究所(http://www.iias.nl/)で、1993年にオランダ王立芸術科学アカデミー・ライデン大学・アムステルダム大学・アムステルダム自由大学が連合して設立した研究機関である。年2回(4月1日、10月1日締切)フェローシップの募集があり、ポスドク以上であれば応募が可能である。
 IIASが位置するのはライデンの中心部、Rapenburg 59番地である。ライデン大学のシンボル的な建築であるAcademie gebouwと同じ並びにある。このRapenburg運河沿いにはシーボルト博物館もあり、驚嘆すべき彼の博物学的関心(収集癖?)の成果を見ることができる。博物館から運河を挟んで斜向かいには、かの西周・津田真道が講義を受けたフィッセリングの邸宅跡も見ることができる。まさに大学の街ライデンの真ん中に位置しているということができる。

 今回滞在が90日を超えるということでビザが必要なケースになったが、在外研究のためのビザはオランダ入国後に所属機関を通じて申請するという形になっていたため、とりあえず入国というなんとも落ち着かない格好での在外研究開始となった。しかし手続きは全て所属機関がやってくれるため、こちらの仕事はひたすら「待つ」以外にない。楽といえば楽でもある。
 私の場合、申請から3週間ほどでビザ発給決定通知が届き、それからさらに1か月後ぐらいに受取案内書が送られてきて、RijswijkにあるIND(移民局)での受取となった。2か月と聞くとずいぶん長いと驚かれる方もおられるかもしれないが、研究者としての滞在のビザは特急申請扱いとのことである。ビザなしでも90日は滞在可能であるから、法的には何ら問題ない訳であるが、やはり些か落ち着かない思いをしたのは今となってはいい思い出である。
 申請に必要な書類は、自分の所属機関がどこか、留学・滞在先機関がどこか、家族同伴か否か等、それぞれの条件で異なってくるので、オランダでの留学・滞在予定先機関及びオランダ大使館(http://japan-jp.nlembassy.org/、東京都港区芝公園3-6-3、日比谷線神谷町駅より徒歩)に確認された方がよい。中には戸籍謄本のように日本国外務省によるアポスティーユ認証(日本国外務省HP(http://www.mofa.go.jp/mofaj/)の「渡航者、海外在住者向けの情報」にある「公印確認/アポスティーユ」をクリック)を経てオランダの法廷に登録されている翻訳者による翻訳を受ける必要があるもの、また学位証明書のように日本国外務省の公印確認を経てオランダ大使館による公印認証を受ける必要がある(私立大学についてはまた別の手続きとなるようである)ものなど、準備に時間のかかる書類があるので、渡航の際には早目早目に手配しておかれる方がよいだろう。

3.図書館情報

 ライデン大学は各学部・図書館がライデン市内に散在した形になっているが、さほど大きな街ではないので、ほとんどが徒歩圏内である。IIASとライデン大学とは密接な提携関係にあるため、IIASのResearch Fellowの身分でライデン大学の各図書館は自由に利用することができた。各図書館の蔵書はHP(http://www.bibliotheek.leidenuniv.nl/)から検索が可能(Catalogueをクリック)である。
 本館にあたるUniversity LibraryはWitte Singel 27に位置する。大半の図書は閉架式であり、HPから予約しておくと専用のボックスに取りまとめておいてくれる。1900年以前に発行された古書等の貴重な文献については別途カウンターでやり取りを行うことになる。図書については全てパソコンを通じて発注を行うという大変スマートな出納方式が採られているが、書架を眺める楽しみがなくなっているのは少し寂しい気もする。特殊コレクションについては別室での利用となる。
 日本学や中国学に最も関係が深いのはEast Asian Libraryであろう。同館はArsenaalstraat 1に位置する。工具書以外は基本的に閉架式となっている。長年東洋学の中心であり続けてきただけに基本的な書籍はほぼ揃っており大変に便利である。一般図書についてはK'ai-Ming Ch'iu, A Classification scheme for Chinese and Japanese books, Committees on far eastern stidies, American council of learned societies, 1943. (裘開明『漢和図書分類法』)により分類がなされている。法学関連は4840~4899番台である(例えば請求記号SINOL. 4885で検索すると清朝期の法典・律例等が検索できる)。
 同館には他にも多くの特殊コレクションが所蔵されている。中国法制史に関係するところでは、唐宋期の公案に取材したディー(狄)判事シリーズでもよく知られるvan Gulik氏の文庫、秦漢法制史の大家Hulsewé氏の文庫、地方志コレクションなどがある。解説や目録については同館のブログ(http://eastasianlibrary.wordpress.com/)を参照されたい。
 Law LibraryはSteenschuur 25、Kamerlingh Onnes Gebouwにある。近年改築され素晴らしい環境の図書館となっている。常用の書籍・雑誌については開架となっているが、閉架部分もある。なお上記三館ではXAFAX CARDというコピーカードを購入すればコピーも可能である。75枚で3.85ユーロ、500枚で25.5ユーロのカードがある。
 ライデン市文書館(Regionaal Archief Leiden、http://www.archiefleiden.nl/)は大学からさらに南のboisotkade 2Aにある。パスポートを提示すれば、ライデンの歴史に関連する史資料の閲覧・写真撮影が可能である。なお、ライデン大学に関する資料は、先に紹介したUniversity Libraryの特別室にある。

 その蔵書の規模と質から言って、ライデン大学の図書館だけでほとんどの用は足りてしまうといっても過言ではないのだが、もちろんそれ以外にも訪れるべき図書館は沢山ある。以下紹介しておきたい。
 ライデン大学の各図書館に近接してオランダ王立言語地理民族学研究所(KITLV)図書館がReuvensplaats 2にある(http://www.kitlv.nl/home/main_page/)。1851年設立の同研究所が主としてインドネシア、カリブ諸地域といったオランダの旧植民地に関する研究を行ってきたことを反映し、東南アジアやカリブ諸国関連の蔵書が豊富である。パスポートを提示すればその場で閲覧が可能である。HPのLIBRARYからCatalogueをクリックすれば蔵書検索が可能。閲覧室にはインドネシアに関する主要雑誌、主要参考書が開架で閲覧に供されている。
 デン・ハーグにはオランダ王立図書館(Koninklijke Bibliotheek、http://www.kb.nl/)がある。ハーグ中央駅(Den Haag Centraal)を降りてすぐ北側にあり、交通至便である。パスポートを提示すればその場で一年間有効の閲覧証(Jaarpas)を発行してくれる。オランダ在住でなければ閲覧のみで予約・貸出は出来ない。閲覧希望の際には係員に依頼して登録してもらう。一日に3回しか出納しないので、事前に綿密な所蔵調査をしてから集中的に利用することをお勧めしたい。そのすぐ隣にはオランダ国立文書館(Nationaal Archief、http://www.nationaalarchief.nl/)がある。
 平和宮(国際司法裁判所)に併設されている平和宮図書館(Peace Palace Library、http://www.peacepalacelibrary.nl/)は、広く国際法に関する資料を収集・公開している。法制史に関する資料は少ないかもしれないが、国際法史に興味のある方は一度覗いてみる価値はあるだろう。入口でセキュリティーチェックを受けた後、平和宮の左手後方にある建物の2階の閲覧受付で手続きを行えば閲覧可能である。
 アムステルダムにはアムステルダム大学図書館(http://uba.uva.nl/en/)がある。本館(University Library、Singel 425)と法学部図書館(Law Library、Oudemanhuispoort 4 (entrance A110))は別組織となっている。他にも多くの部局図書館がある。アムステルダム大学に在籍していなくても利用はできるが、正式なLibrary Cardはオランダ国内に3ヶ月以上滞在する18歳以上の者が申請できる形になっているため、week pas等短期滞在用のカードを申請する形になる。
 アムステルダム大学には現在The Netherlands China Law Centre(NCLC・荷中法律研究中心、http://nclc.uva.nl/)が設置されており、新進気鋭のBenjamin van Rooij教授(現代中国法専攻、論文Regulating Land and Pollution in Chinaで2006年にライデン大学法学部より博士号取得)を所長として、研究会などが行われている。法制史というよりは現代法に関する研究会が多いが、欧州における中国法研究の一つの拠点として成長してゆくことが期待される。
 他に特殊な図書館としてオランダ王立熱帯研究所図書館(Koninklijk Instituut voor de Tropen、Mauritskade 63、http://www.kit.nl/kit/Library)がある。アムステルダム中央駅(Amsterdam Centraal)からトラムに乗り、Alexanderpleinで下車すれば目の前である。建物自体が歴史的建造物に指定されており、ロビーの壮麗さにまず目を奪われる。受付で登録を済ませれば誰でも2階の図書館を利用できる。1910年に設立された植民地研究所の蔵書を引き継いでおり、オランダの旧海外植民地に関する豊富な蔵書を有する。併設の熱帯博物館(Tropenmuseum、入口は図書館とは別)も興味があれば覗いてみて頂ければと思う。

 オランダ人からは「本は大体インターネットで買う」という話をよく聞き、確かにBol.com(http://www.bol.com/nl/boeken/index.html)のようなHPもあるのだが、やはり本屋巡りの醍醐味を味わいたいと思うのは私だけだろうか。新刊書の書店としては大きな街であればPolare(http://www.polare.nl/、新刊書店Selexyzと古書店De Slegteが2013年6月末に合併して新たに営業)、Van Stockum(http://www.vanstockum.nl/)があり、法律専門書店としてJongbloed(http://www.jongbloed.nl/、ハーグ(Noordeinde 39)とライデン(Kloksteeg 4)の2店舗)がある。
 オランダの古書・古書店検索にはAntiqbook(http://www.antiqbook.com/)が便利である(オランダ以外の古書店も検索される)。短期滞在では難しいかもしれないが、地方の小さな街の古書店は実に味わい深い。こうした古書店は常設店舗を持つもの、店舗はあるが決まった日時または予約時のみ開店するもの、実店舗を持たずに営業しているもの等形態は様々であるので、訪問される場合は事前にメールで確認されたい。

4.その他

 その他のオランダ語文献の探し方については、実践女子大学図書館HP(http://www.jissen.ac.jp/library/index.htm)の「インターネットで文献検索」にある「オランダ語図書の探索」が便利である(「インターネットで文献検索」→「第2章 図書を探す」にある<主要言語へのリンク>から「オランダ語」をクリック)。
 オランダの現代法に関する調べ方については、京都大学大学院法学研究科附属国際法政文献資料センターのHP(http://ilpdc.law.kyoto-u.ac.jp/index.html)に詳細な紹介がある(「外国の法律・政治行政資料の調べ方・文書の入手方法」→「ヨーロッパ諸国(英独仏を除く)の法律文献・政府文書などを調べる」→「オランダ」をクリック)。
 その他お役立ちサイトとしていくつか紹介しておきたい。オランダ国内を縦横無尽に走るオランダ国鉄のHP(http://www.ns.nl/)では時刻・運賃検索が可能であり、旅行計画を立てるのに便利である。切符の自動販売機は紙幣を受け付けないので、短期旅行であれば駅の窓口で買うことになるだろう。駅の改札がない代わりに車内で検札がある。変わりやすいオランダの天気はWeer.nl(http://www.weer.nl/)で都市ごとに確認できる。

 オランダの方は子供から年配の方まで非常に流暢な英語を操るので、こちらも英語で全く不自由しないけれども、多少なりとオランダ語を交えた方が良いのは言うまでもない。下手なのは承知で、せめてgoedemiddag!(こんにちは)dank u wel!(ありがとう)、tot ziens!(では、また)ぐらいのオランダ語を使ってみて頂ければと思う。オランダの方もいつもの3倍の笑顔を返してくれることだろう。
 末筆ながら、今回の在外研究でお世話になったW. J. Bootライデン大学教授、及びIIASのスタッフの皆様には再度この場をかりて御礼申し上げたい。Boot教授は大変ご多忙であるにもかかわらず筆者のために様々に細やかな配慮をしてくださり、何不自由なく素晴らしい研究生活を送らせて頂いた。またIIASのスタッフは実に優秀で、宿舎の手配から関係機関への紹介状の発行、医者の手配、荷物の受取等、まさに至れり尽くせりの対応をそれも大変迅速に行っていただいた。これからオランダでの長期滞在をお考えの先生方は、是非とも滞在先の選択肢の一つとして同研究所を考えて頂ければと思う次第である。

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